JOCA連載コラム vol.28

2014/6/14-原子力災害からの復興を考える-との全体テーマのもと、福島大学で
環境社会学会が開催されました。その席上、ふくしまオーガニックコットンプロジ
ェクトに関わるテーマで、次のような内容の発表を行いましたのでご報告します。)

福島における持続可能な農業再生への取り組みと見えてきた課題
-ふくしまオーガニックコットンプロジェクトを事例として-

JOCA理事  竹内 宏規

1.はじめに

国内の綿栽培は、江戸期には自給の意味でも経済活動を伴う形でも盛んに行われたが、明治期に入り紡績原料として繊維長が長く格段に安い海外産の綿花が輸入されるにおよび、換金作物としての栽培は消滅した。そして現在まで農水省の農業生産品目からは除外されている。

福島原発事故後の混乱の中で、いわき市にふくしまオーガニックコットンプロジェクトが生まれ3年になる。栽培は耕作放棄地の利用を含め当初の2倍の3haに増え、綿の放射線量を確認しつつ(巻末注)、現在は強制避難地域に近い広野町、南相馬市にその範囲を拡げている。

このプロジェクトは、食用作物に代えて綿の栽培を提案することで、「風評」に苦しむ農業者の転作を支援し、また避難している農業者や帰還を考える農業者に新たな就農機会を提供しようとするものである。その目的は、福島の農業生産の復活であり人と地域社会の再生である。

その仕組みは、綿の有機栽培を行い、収穫した綿で人形を作ったり糸や生地にしたものからTシャツなど最終製品を作るものである。また消費者に綿の種を提供し、消費者自らが栽培した綿を福島に戻してもらい原料にする、消費者参加の循環型生産サイクルを持つものである。

ただし、上述の如く換金作物としての綿の栽培は誰も経験がなく、実験的な事業である点で困難も多い。また、海外との綿の生産コストの差が大きいため、綿の栽培自体を企業活動として行うのか社会貢献を目的として行うのかによって、その位置づけは大きく異なるものとなる。

2.福島農業の現況について

福島県の浜通り地区における農業者が直面する問題は、避難生活、就労困難、家族の分断、農業コミュニティの崩壊、「風評」による経済的・精神的ダメージ、耕作放棄地の拡大など、数え切れない問題が山積している。このうち、このプロジェクトが関わり得ると思われる3つの項目について、データを含め現況を見ていきたい。

(1)「風評」による経済的ダメージ    (福島県産品に対する首都圏消費者意識調査)
買わない買う機会なし気にならない買うその他


*2014年2月14日福島民友朝刊掲載
この調査は、昨年12月までの1年3ヶ月の間に、福島県産品に対する首都圏の消費者意識がどのように変化したかを見るものである。ここから見えることは、この期間において消費者の意識にほぼ変化が見られないこと、そして福島県産品を「買わない」「買う機会なし」との否定的なニュアンスを選択した消費者が、事故から約3年を経ても約半数存在することである。

(2) 耕作放棄地の拡大
耕作放棄地は5年に1度の農林業センサスで実態調査が行われ、2010年すなわち原発事故前の調査において福島の耕作放棄率は19%と、全国平均10%より突出したものとなっていた。事故後については、食料農業白書2013によると、避難者を含め震災後の福島の農業者の約41%が営農を再開しておらず、福島の耕作放棄率は今後もなお大きく上昇するものと推測される。

(3) 帰還政策について
国の帰還政策は、除染とインフラ復旧が進めば元の住居に戻るべきとの前提に立っている。 これに対し、帰還への住民意向調査(復興庁・福島県2013)の富岡町の例では、「戻りたい」15.6%、「判断がつかない」43.3%、「戻らないと決めている」40.0%、無回答1.1%である。
1ミリシーベルトの基準放射線量を帰還地域に限っては20ミリシーベルトとすることや、放射性廃棄物の「中間貯蔵地」が「最終貯蔵地」にされてしまうのではといった疑義があるからこその結果であり、農業者は更に帰還し帰農しても風評影響の不安が付いて回ることになる。

3.ふくしまオーガニックコットンプロジェクトがもたらす政策的効果と今後の課題
「風評」による影響に関し、復興庁2013「福島復興・再生に向けた取組状況」の国の施策として、①農産品ブランド力回復のPR、②省庁の食堂利用、③海外の輸入規制緩和、などと具体策なくお手上げ状態を露呈している。そんな中、食物としてではない工業用原料への作物転換は、「風評」に左右されずに農業者が農業を継続できる具体的な方策の一つといえる。

耕作放棄地については、「少子高齢化+過疎化」が元々の増加要因であり、放射能被害がこれを加速させることが確実視されているなか、耕作放棄地を中心に活動範囲を拡げる農業活動は、拡大すればするほど耕作放棄地を縮小させる効果をもつことはあきらかである。

また、農業を生業としてきた避難者や将来の帰還者に対し、他の仕事ではなく農業者としての仕事の創出こそが必要不可欠であって、農業コミュニティの再生という意味も含め、その政策的効果は、農業生産の再生のみならず農業者すなわち人の再生をももたらすものと考える。

しかし事業性については課題もある。現在、再生エネルギーや被災地スタディーツアーの市民プロジェクトと連携し、相乗効果が生まれ、経費効率は上がりつつある。しかし輸入綿花に較べてそのコスト差が非常に大きく、綿栽培単体では採算的に成り立たない。栽培地を増やせば増やすほどマイナスが大きくなり、本来なら別事業であるべき製品加工事業の収益のプラスでこれを補い、且つ寄付金などの好意に頼らざるを得ないのが現状である。

ただし、この事業は原発事故後のスタート時から、企業の如く採算を求めて生まれたものではなく、原発事故がもたらす何時終わるとも知れない特殊な被害に直面する農業者を支援する目的で、あくまでも社会性を重視して生み出されたNPO活動であることを想起すべきである。

その意味において、風評被害、耕作放棄、帰還政策などの問題に対応し得る具体策として、また津波被災地で効果を発揮する塩害対策としても、綿栽培の持つ機能と役割が広く認知される必要があると同時に、まず綿花そのものが農林省の農業品目として認定される必要がある。

農業品目に認定し、海外綿花とのコスト差を政策上の機能と役割に見合う「社会的費用」として捉えれば、現在は対象とされていない農林省の耕作放棄地再生利用交付金や復興庁の被災者向け農業雇用事業交付金などの枠組みの中に含めることは十分に可能であると考えられる。

当然、補助金等は時限の措置に過ぎず事業継続面で持続可能性がないとの指摘も有り得る。しかし、この事業があくまで原発事故がもたらした被害への対応策であり、また一時的に綿栽培に取組む農家が含まれることを考えれば、時限の措置にも十分意味が有り効果を期待し得る。

まずはそれらの支えによって、農業者は安心して綿栽培への転換と農地の利用拡大を進めることが出来、拡大をすることによってその特徴的な機能を十分に発揮することが可能となる。そこにおいて、このふくしまオーガニックコットンプロジェクトは福島の持続可能な農業生産の復活と人と地域社会の再生のための課題解決型プロジェクトとして、あらたな公的意義とあらたな役割を持つに至るものと考える。

以上。

注 :  いわき市内で栽培された綿のセシウム134と137の放射線量は、東北大学大学院理学研究科原子核物理研究室の測定ならびに解析によって、検査したすべての農場の綿はNDすなわち検出限界以下であることが証明された。

参考文献:
1.松岡俊二、いわきおてんとSUN企業組合編(2013)『フクシマから日本の未来を創る』早稲田大学出版部
2.小出裕章、明峯哲夫、中島紀一、菅野正寿(2013)『原発事故と農の復興』コモンズ出版
3.守友裕一、大谷尚之、神代英昭編著(2014)『福島 農からの日本再生』農文協

JOCA連載コラム vol.27

Textile Exchange マーケット・レポートより
(拾い読み(第1部))

JOCA理事長 森 和彦

今年もテキスタイル・エクスチェンジの2012オーガニックコットン・マーケット・レポートがリリースされました。前年は一般公開されていましたが、今年はまたTEの会員のみになったようです。ダイジェストとまでは行きませんが、拾い読みに解説と少し書き足しをしてみます。
2回に分けて掲載します。

◆ラリー・ペパーさんの序文では、こんなことが書かれていました。
プーマとC&Aがオーガニックコットンの有益性について説明するため、しっかりした信頼できるデータを提供しようとリサーチを実施しました。このリサーチとその他のリサーチも含め、オーガニックコットンが環境だけでなく、経済的にも社会的にもゴールド・スタンダードであることを示しました。

C&Aはウォーター・フットプリント・ネットワークと組んで、コットンのウォーター・フットプリントの調査を実施、いわゆる「グレー・ウォーター」(処理して再利用できる軽度な汚れの廃水、ブラック・ウォーターは下水)では、コンベンショナル・コットン栽培はオーガニックに比べ5倍も多いことが分かりました。化学肥料と農薬その他を含む農業排水のことですね。製品の製造加工でも調べたら相当の差が出ると思います。
プーマはライフサイクル・アナリシス(LCA)の専門家PEインターナショナルと組んで、インドのオーガニックコットン栽培のライフサイクル・インベントリー(LCI)分析を実施中、データは今後みんなで使えるはず、と言っています。こうご期待!
(注:ライフサイクル・インベントリー分析とは、決ったシステム境界内の製品のライフサイクルで エネルギーや材料などがどれだけ投入され、また排気ガスや廃棄物がどれだけ放出 されたかを分析すること。)

C&Aは前年比78%の増加、翌年は20社がこのレベルの貢献をするはずとあります。大きく伸びる会社が全体の使用量を引き上げ、戦略的に成功しているが、中途半端な取り組みの会社は減っている、と言うことですかね。

また新しいコットン生産システムが、産地の環境やコミュニティーを考慮するようになったことを歓迎、そしてリサイクルや再生可能な繊維は市場の多様性と強化に役立つので、拡大を歓迎、もうコットンだけではない、とあります。この辺りは皆さんの考え方がいろいろ分かれそうですね。

多様な「モア・サステイナブル繊維」を使うことが、新しいビジネスモデルを考えることに繋がり、長期的な「プリファード・ファイバー戦略」を作る。その戦略が会社に、その繊維の定義や最終ゴール、基準や認証への人々の感覚調査、サプライチェーンの特長付け、消費者に有益性を伝えることなどをプッシュすることになるはず。
このような多様な繊維の選択拡大は難しさもあるが、一方で社会的、経済的(生産者の家計)、環境的にポジティブな変化をもたらし、より持続可能なテキスタイルの世界をもたらすでしょう。

今回のマーケット・レポートには小売店が農家と協働するケース・スタディーやブランドが消費者と約束をする例などが含まれています。こう言ったポジティブな相互乗り入れをご覧にいれ、皆さんで情報共有をして行きたいと思います。最後にLa Rhea Pepperサイン、写真もまだパワフルです。

◆ここからは本文、まず市場の概略です。
オーガニックコットンのみの小売市場規模は89億ドル、日本円で約89百億円。これにその他の「モア・サステイナブル繊維」を含めたトータルの小売市場は成長著しいパワーになる。ただその「プリファード・ファイバー領域」の中でのオーガニックコットンの位置付けは、良い結果とランキングを維持している。
「モア・サステイナブル」と「プリファード」の定義として:
どんなものでも何かしらのインパクト(影響や負荷)があり、その意味ではまったくのサステイナブル(持続可能な)繊維や素材、市場はない。(比較し、折り合いを着けた結果の問題)
「プリファード」は、インパクトと組織としての優先度を考慮する中で、エコロジカリー(生態学的)と社会的に前向きな選択肢のより良いものをチョイスすると言う意味。
「モア・サステイナブル」は上記と似たメッセージを伝える言葉、この繊維あるいは素材、製品は、その他のいろいろな選択肢の中で比較して選ばれたものです、のように。

◆このレポートには基準の更新も含まれています。
例えばOEスタンダードはオーガニック・コンテント・スタンダード(Organic Content Standard, OCS)に替わり、これはコンテント・クレイムの基準(…が含まれていますという主張を裏付ける)であり、繊維の量とサステイナビリティーの資格証明の意味を持つシステムを説明しています。次回に各基準の詳細を表にします。

◆グローバル・トレンド
●科学者が警告する洪水やハリケーン、干ばつはもう当たり前の現象になりそう。
●工場火災、ビルの崩壊、政情不安、社会的混乱、などの人災がテキスタイルやアパレルそしてその他のビジネスに大きく影響、コミュニティーの荒廃を招いている。
●ブランドと製造工程の統合は続いていて、結果として少ないプレイヤーになり、より強力になるということ。
●ニヤ・ショアリング(Near shoring)の考え方が、繊維やテキスタイルがどこで栽培され製造されたかに影響を与えている。(従来のOff shoring、遠い国で作らせる、の逆のコンセプト)
●人口増加と所得配分の変化は機会にもなるが心配ごとにもなる。

こう言った諸問題の中、「モア・サステイナブル」繊維の選択肢は勢いを得ている。オーガニックコットンの生産量は、昨年ドラスティックに減少した後、今年は8%ダウンと足元の維持はしています。

その他の「モア・サステイナブル」コットンの選択肢は成長を続けています。フェアトレード、コットン・コネクトのリール・コットン・イニシアチブ、バイエルのE3プログラム、ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)、コットン・メイドイン・アフリカ(CmiA)など。リサイクルや再生可能繊維の使用も伸びています。(また新顔が増えた!)

◆テキスタイル・エクスチェンジの新しい役割

オーガニック・エクスチェンジの創業メンバーは、オーガニックコットン・マーケットを築くためのツールの開発と集まるための場所を作る必要を感じていました。その結果TEはテキスタイルのサステイナビリティーの世界でユニークなポジションを得ています。我々のオーガニックコットンでの経験が、より広い市場で役に立つ基礎を作りました。TEは実際にメンバーと事業者に、自覚を持ち、知識を分けあい、サステイナビリティーの資格証明を得て、市場にむかって環境的に「プリファード」な繊維製品を届けるために必要な資源を提供します。

今日のテキスタイル・エクスチェンジは
●会合を開き、情報提供し、会員に基礎を置き産業をまたぐ可能性を作り上げる
●製品と産業のインテグリティー(間違いないこと)の提唱
●向上のためのポジティブな革新をもたらす支援
●オーガニック農家が見えるようにし、安定した市場へのアクセスを改善、ビジネス機能の開発
●サステイナビリティーを戦略にすること、グローバルなテキスタイル産業にまたがるアクションを加速させるパートナーシップを作る。

経営者用の概要書
二つのトップ・テン・リスト、C&Aが両方ともトップ
販売量のトップ・テンにC&Aが2年間2位のあとトップに返り咲きました。我々はC&Aが製品への投資だけでなく、農民の訓練と教育の支援のための農場ゲートへの投資も続けていることを称賛します。
(以下に表を掲載)
成長率のトップ・テンでもC&Aがトップで前年比78%の増加。これは今回が初めての試み。オーガニックコットンを優先して使うのを増やした企業が分かるように作りました。(表は割愛)
販売量のトップ・テン・リストに入るには,年間2百万ポンド、約900トンのオーガニックコットンを使うことになります。これは初めてのことで驚きでした。

森の感想:
色を付けたのが継続して使っている会社。ベストスリーはC&A、H&M、Nikeで変わらない。Zaraがんばれ! ウォルマート/サムスクラブが消え、アディダス、ディズニーも消えたみたい。BCIに行ったのかな?
C&AとH&Mはヨーロッパ生まれのグローバル・ファスト・ファッション、仲良くトップを競う。スポーツのナイキ、プーマとアディダスは方向が分かれたみたい。ウォルマートにカルフールとターゲット・ストアが対抗している。

JOCA連載コラム vol.26

福島オーガニックコットンそして福島の今

JOCA理事 竹内 宏規

関西学院KGコットンプロジェクトの一員として、2年目を迎えた福島オーガニックコットンプロジェクト、そして3.11から2年半となる福島の今を取材してきました。

福島オーガニックコットンプロジェクトは、一人一人が厳しい環境にありながらも、それを乗り越え、人の輪としごとをそして小さいながらも産業を作り出そうとしているプロジェクトです。

ここでは日照時間や気温の高さが特に必要とされる綿の生育にベストの条件が揃っている訳ではなく、昨年の栽培後半にはせっかくついたコットンボールが開かずにかびてしまい、収穫量が予想を大きく下回ったというファームもあります。その意味では決して順風満帆に事が進んでいるという訳ではありません。

しかしそれでも、誰も綿の栽培をあきらめたり放り出したりもせず、それどころか、拡がりつつある耕作放棄地を一つづつ借り上げそして増やしつつ、原発事故による強制避難を余儀なくされている人たちにも呼び掛けて、みんなのしごとを少しでも拡げようと努力されています。その皆さんのミーティングで、「オーガニックコットンといえば福島、福島といえばオーガニックコットンといわれるようになりたい」と語られる姿がとても印象的でした。

今回の取材を通じて、一方で原発事故の影響から何も変わらない変えられない現在の福島の厳しい状況を多くの方に知ってもらい、また一方で、だからこそもっと前向きに生きようと一人でも多くの人に働き掛ける努力をしている人たち、それをどこまでも支えようとしている人たちの存在を知って頂き、そしてその思いをも共有して頂くことができればと思います。

年末までに編集を終えてDVD化し、できれば短くしたものをYouTubeで見て頂けるようにもしたいと思います。乞うご期待。

JOCA連載コラム vol.25

オーガニックコットンのUV効果

JOCA理事 木村 彰

今年の夏は各地で猛暑と豪雨が猛威を振るっていますが、私の住む山梨県でも7月に
39度を超える日が3日も続きました。特産品である葡萄の栽培は、程よい寒暖の差が
良いといわれていますが、昨今の猛暑続きで「ワイン産地としての優位性が揺らぐので
は」という危機感もあり、ブドウの実を扇風機で冷やすなどの実験が行われているそう
です。猛暑の影響は私たちの身の回りに様々な悪影響を及ぼしています。

また、日中の強烈な日差しは気になるところですが、私たちは、この有害な紫外線から
身を守らなければなりません。

オーガニックコットンがUVカットに優れていることは、よくご存じだと思いますが
試験機関で調べてみると、そのデータには驚かされます。

(一般的に紫外線は、紫外線A波、B波、C波があり、紫外線C波はオゾン層で吸収され、
地表には届きませんが、オゾン層を通りぬけた一部のB波とA波は地表に届き、日焼け
など皮膚に悪影響を与えるのは紫外線B波です。紫外線遮蔽率はA~C波までの全波長
に対してのデータです。)

検査結果はこちら→http://www.joca.gr.jp/download/20130806kensakekka.pdf

画像をご覧いただくと綿は紫外線など外部からの刺激から中にある種を守るために、
まるで赤ちゃんを優しく包むお母さんのように大切に種を守っているのがよくわかります。

厳しい環境変化の中で生き残っていくために綿が本来持っている“自然のちから”は
偉大で、尊いですね。

先日誕生したロイヤルベビーが、お披露目の際に7月の暑い時期にも関わらず、綿の
ニットアフガンに優しく包まれていましたが、私たちも、自然の恵みを活かした素材をより
意識して身に着けたいものです。

JOCA連載コラム vol.24

有機米を召し上がれ!

JOCA顧問 作吉 むつ美

今年の梅雨は長くて、雨量が少なくて変だ。毎年、気候の変動があり、もはや異常気象などという言葉を使うことも稀ではないかと思う。私の住む静岡では空梅雨となりそうな状況だが、心配なのは、飲料水や生活水だけではない。私たちの主食である水稲の栽培は大丈夫だろうか。今日は有機米と他のお米との違いを紹介したい。


◆種もみ
そもそも、米は自分で収穫した種を保管しておいて翌年の栽培に使うことができる優良な作物である(もちろん、野菜などでもできるけれど、手がかかるし、品種の特性をいかすのが難しい)。もちろん、米だって品種改良がすすんでいるから、それを続けると、だんだんもとの形質が表にでてきてしまう。なので、3年に一度程度の頻度で種子更新といって新しい種を購入することが多い。もちろん、遺伝子組み換え品種は使えない。
有機栽培だと、原則は「有機の種」を使うように基準で要求しているが、この3年に一度の更新のときは、やむを得ないので有機でない種もみを使ってもよいことになっている。しかし、不要な種子消毒(育苗中は病気にかかりやすいため、殺菌剤などを使うことが多い)は認めていない。そこでよく取り入れられているのは、「温穏消毒」。ギリギリの温度(60℃ぐらいから65度ぐらいが多い)のお湯に種もみをつけ、菌を減らすのだ。最近は自動でお湯の温度管理ができる機械があるし、有機米だけでなく特別栽培米でもよく利用されているが、昔はお風呂を使ったりして工夫していた。
二十年近く前、ある地域の農協関係者が有機米づくりに取り組みはじめたころ、有機のポイントを説明するよう呼ばれたことがあった。種もみを化学農薬で殺菌をしてはいけないことを説明すると、技術士と呼ばれる米作りの指導者が、半分おこりながら「そんなことをしたらばか苗病がでて、苗が作れない」とのたまう。一方で、現場で指導する農協の担当者は「去年まで、三種混合薬剤で殺菌しなくてはダメだとさんざん言っていたのに、今年はいっさいするなと言わなくてはいけなくて。でも、できちゃったんですよねえ」と頭をかきながら笑っていた。

書類検査風景

この農家さんの田んぼのお隣では、農薬を散布するため、
隣接するところを、先に手刈りしている。2012年産のその
作業を写真や記録に残し、検査員に説明しているところ。
(帽子をかぶっているのが検査員)

◆育苗
苗半作、という言葉はご存じだろうか。苗づくりは最終的な作物の出来の半分ぐらいを左右するぐらい、技術や労力のいることであるというのを指している。人間でも赤ん坊の世話はいろいろ手がかかるのと同じようなものだと思えばよいか。
まず、種もみをまくための土(苗床)だが、これは有機認定をうけたところ(圃場)の土を使えばよい。でも、田んぼの土にはいろんなものが入っている可能性がある。安定した苗づくりには、変な菌がはいっていないものや、pHの安定したものがよいため、よく山の土をほったものなどが使われる。しかし、この山で、たとえば松くい虫のための防除があったり、産業廃棄物から化学物質などが流れ出たりしていてはいけない。有機認定をうけた圃場と同じように、過去2年以上にわたって、薬剤などによる汚染がないことを確認しなくてはならないのである。もちろん、肥料分の補填や土壌改良剤などについても、制限がある。化学合成肥料などは使えない。
二十数年前ぐらいまでは、育苗中は少量の化学肥料を使っても「有機」という言い方をしていた。種の殺菌以上に、育苗に化学肥料を使えないことは技術的に難しいようで、有機栽培に取り組み始めたばかりの人達が、失敗してしまうことが多いのが、この苗づくり(苗が十分に成長せず、田植えの時期を迎えてしまうなど)。今では、有機の肥料でも使いやすいものが増え、技術情報の交換もあり、だいぶ失敗は減ったようだ。でも、神経を使って取り組まなければならない大事な工程であることに違いはない。

◆田んぼの管理
自分で田植え機にのってみればわかるけれど、平らにみえる田んぼも実はそんなにビシッと平らにできているとは限らない。田植えの前には、肥料をまき(もちろん、有機肥料)、整地をし、水をはって準備をするのだけれど、代かき、と呼ばれる整地工程が大事である。一枚の田でも、浅いところや深いところ、堅い地盤のところや、ずぶずぶなところがあったりする。そこをいかにならしていくのかが、腕のみせどころである。
有機米栽培といえば、最終的にはほぼ「雑草との戦い」みたいなところに凝縮されるが、戦いは、この代かきから始まっている(もっといえば、冬場の管理からだが)。雑草とよばれる植物たちは、生命力が旺盛だ。この時期、種を表層に引き出し、早めに発芽させてしまうことで、後の雑草管理を楽にする。地域によって、水事情は異なるが、二度代かきをする方も多く、一度目と二度目の感覚がポイント…..などという話を聞かせてもらえると、
ちょっとわかったような気になる。

草とりナウー

撮影日 2013年7月1日。田植えは5月下旬だが、そのあと
機械を使っての除草を3回。しかし、たっぷりとコナギが
田んぼに見える。ご夫婦で取り組む農家さんで、この日は
ご主人が検査に対応、奥様がせっせと草取りに励んでいた

除草剤という便利なものがあるが、有機栽培では使えない。そのため、田んぼの中に雑草が繁殖しないよう、いろんな工夫がされる。ひとつには紙マルチ。古紙を材料につくったシートを引きながら田植えをする方法(紙マルチ用の田植え機がある)。この紙は、時間がたつにつれて溶けるのだが、苗が小さいうちは表面を覆っているので雑草がはえにくい。溶けたころには、稲が大きくなり、日の光をさえぎるため、雑草が繁茂しにくいという仕組みだ。
また、合鴨を使って、田んぼの草を抑えるという方法も盛んである。鴨が泳いで水を濁らせることや、水中の虫をついばみながら雑草もつついてくれたりする。日本で生まれたこの合鴨栽培は、お隣の韓国にも伝播し、合鴨村と呼ぶべき地域もあるほどである。しかし難しいのは、鴨の管理。田の隅々まで動いてもらうためには、餌の上げ方など、コツがあるようだ。苗をなぎ倒してしまう鴨もいて、すごいところでは畔をつつきまくって田んぼが2枚つながっていた例にもでくわしたことがある。はじめ15羽(10aあたり)いたけれど、野犬やキツネなどにやられて、最後には数羽しかいないというのはよく聞く話。カラスなどに鴨がやられないようテグスをはったのはいいが、自分が田んぼに入るときは、ひっかかってしまったとか。鴨のお役目が終わっあと、かわいくて処分できなかったなんてこともある。

鴨が脱走中

元気な鴨たちが、せっせと虫をついばみ、稲のあいだを行き来している….
と思いきや、数羽が電柵の外に脱走中。
野犬などに襲われるので、最近は脱走よけのためのネットでは足りず、
電柵をつけている農家も多い。でも脱走されてしまえばねえ…飼い主なら
ず、指揮官(?)の心知らずの鴨たち。

そのほかの雑草管理の方法としては、くず大豆を使うとか、米ぬかを使うなどもあるし、除草機も様々に開発されたり、器用な方は自分でいろんな道具を作り、グループで集まると皆でその成果を交換しあうので、検査が止まってしまうこともある。仕事は途中で止まってしまっても、この貴重な情報はこちらも耳ダンボにして聞き入ってしまうところだ。
また、雑草との戦いというのは、実は田んぼの中だけではない。その周辺の畔(あぜ)の草の管理も含まれている。有機栽培米づくりに取り組む人達は、暑い夏のさかり、田んぼの中の草取りのほか、畔の草刈りを3~4回している。一度、草刈りのタイミングを逸してしまった田んぼに検査にいった。草むらのようになったその畔には、虫が生息しているので、今刈り払うと、周りに迷惑がかかるというので、そのままにしているという。背丈ほどにも伸びた雑草をなぎ倒しながら歩き、記念写真までとってしまった。コンクリートに囲まれたところに暮らす方ですら、ちょっとした隙間から生える草を目にすることがあると思う。そう、彼らはすごいのだ。多少踏みつけられても、たくましくまた立ち上がる。彼らはすごいのだ。

自分だけではなく、周辺との関係のむずかしさ
さて、田んぼには水は欠かせないものだが、頭痛の種でもある。地域によって水まわりの環境は大きく違うが、隣の田んぼで使った水を再利用する形で使うことも多い。しかし、その隣の田んぼで化学肥料や農薬が使われていれば、水をとおして有機の田んぼにも入ってきてしまう。これを避けるために、水入れのタイミングを工夫したり、「浄化水田」といって、自分の田に水が入る前に炭を入れて浄化したり、水路に雑草などをたくさん繁茂させてみたりしている。
また、栽培期間中は、虫が発生しようが、病気が広がろうが、原則農薬に頼ることはない。私が出会う有機米栽培農家で、田んぼに農薬を散布した話はほとんど目にすることはない(基準ではごく一部、農薬が認められているのですべての有機米が無農薬とはいいきれないが)。しかし、周辺の農家が殺虫殺菌剤などを散布することに異を唱えることはできない。最近は農家も高齢化しているので、ラジコンヘリなどで一斉に薬剤散布する地域もあり、それを避けることはやさしくない。有機の田んぼでそうした農薬は散布されないが、飛んでくるものは避けられない。自分が撒いていなくても、飛んできた、あるいは飛んでくることが明白であれば、その飛散した部分は、収穫しても「有機」として出荷できないようになっている。別に管理することそのものが手間であるが、この涙ぐましい管理によって、お届けしているのが有機米なのだ。

◆有機米を食べよう
日本の稲作というのは、先人からの叡智の結集だと思う。すでに確立した技術だけれど、昔にもどれば、みな有機という単純なものではない。二十年ほど前は、技術指導者たちやベテランの米作り農家に、有機基準の要求されている内容を説明すると、下手すれば怒鳴られたりしたものだ。それが、十年前ぐらいには、有機栽培米づくりの研究会などで、「除草剤を使わないでどのような管理をするか」さまざまな実例、経験から、喧々諤々?の意見交換があったという。
昨年あたりから、国産米が高くなり、外食産業向けの輸入米がいっきに需要が高まって入札が大変だという。こうして輸入された安い米を使って、500円玉一つで余裕のお弁当やランチ定食は、庶民の味方である。でも、私はいいたい。他ならぬ主食、日本のお米の美味しさは、知らねば損。私たちは自分が食べたもので自分の体を作っているのだもの。もし、機会があれば、有機米づくりに取り組む方たちのパワーをもらうつもりで、有機米を召し上がってほしい。