日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。
日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。

JOCA連載コラム vol.24

有機米を召し上がれ!

JOCA顧問 作吉 むつ美

今年の梅雨は長くて、雨量が少なくて変だ。毎年、気候の変動があり、もはや異常気象などという言葉を使うことも稀ではないかと思う。私の住む静岡では空梅雨となりそうな状況だが、心配なのは、飲料水や生活水だけではない。私たちの主食である水稲の栽培は大丈夫だろうか。今日は有機米と他のお米との違いを紹介したい。


◆種もみ
そもそも、米は自分で収穫した種を保管しておいて翌年の栽培に使うことができる優良な作物である(もちろん、野菜などでもできるけれど、手がかかるし、品種の特性をいかすのが難しい)。もちろん、米だって品種改良がすすんでいるから、それを続けると、だんだんもとの形質が表にでてきてしまう。なので、3年に一度程度の頻度で種子更新といって新しい種を購入することが多い。もちろん、遺伝子組み換え品種は使えない。
有機栽培だと、原則は「有機の種」を使うように基準で要求しているが、この3年に一度の更新のときは、やむを得ないので有機でない種もみを使ってもよいことになっている。しかし、不要な種子消毒(育苗中は病気にかかりやすいため、殺菌剤などを使うことが多い)は認めていない。そこでよく取り入れられているのは、「温穏消毒」。ギリギリの温度(60℃ぐらいから65度ぐらいが多い)のお湯に種もみをつけ、菌を減らすのだ。最近は自動でお湯の温度管理ができる機械があるし、有機米だけでなく特別栽培米でもよく利用されているが、昔はお風呂を使ったりして工夫していた。
二十年近く前、ある地域の農協関係者が有機米づくりに取り組みはじめたころ、有機のポイントを説明するよう呼ばれたことがあった。種もみを化学農薬で殺菌をしてはいけないことを説明すると、技術士と呼ばれる米作りの指導者が、半分おこりながら「そんなことをしたらばか苗病がでて、苗が作れない」とのたまう。一方で、現場で指導する農協の担当者は「去年まで、三種混合薬剤で殺菌しなくてはダメだとさんざん言っていたのに、今年はいっさいするなと言わなくてはいけなくて。でも、できちゃったんですよねえ」と頭をかきながら笑っていた。

書類検査風景

この農家さんの田んぼのお隣では、農薬を散布するため、
隣接するところを、先に手刈りしている。2012年産のその
作業を写真や記録に残し、検査員に説明しているところ。
(帽子をかぶっているのが検査員)

◆育苗
苗半作、という言葉はご存じだろうか。苗づくりは最終的な作物の出来の半分ぐらいを左右するぐらい、技術や労力のいることであるというのを指している。人間でも赤ん坊の世話はいろいろ手がかかるのと同じようなものだと思えばよいか。
まず、種もみをまくための土(苗床)だが、これは有機認定をうけたところ(圃場)の土を使えばよい。でも、田んぼの土にはいろんなものが入っている可能性がある。安定した苗づくりには、変な菌がはいっていないものや、pHの安定したものがよいため、よく山の土をほったものなどが使われる。しかし、この山で、たとえば松くい虫のための防除があったり、産業廃棄物から化学物質などが流れ出たりしていてはいけない。有機認定をうけた圃場と同じように、過去2年以上にわたって、薬剤などによる汚染がないことを確認しなくてはならないのである。もちろん、肥料分の補填や土壌改良剤などについても、制限がある。化学合成肥料などは使えない。
二十数年前ぐらいまでは、育苗中は少量の化学肥料を使っても「有機」という言い方をしていた。種の殺菌以上に、育苗に化学肥料を使えないことは技術的に難しいようで、有機栽培に取り組み始めたばかりの人達が、失敗してしまうことが多いのが、この苗づくり(苗が十分に成長せず、田植えの時期を迎えてしまうなど)。今では、有機の肥料でも使いやすいものが増え、技術情報の交換もあり、だいぶ失敗は減ったようだ。でも、神経を使って取り組まなければならない大事な工程であることに違いはない。

◆田んぼの管理
自分で田植え機にのってみればわかるけれど、平らにみえる田んぼも実はそんなにビシッと平らにできているとは限らない。田植えの前には、肥料をまき(もちろん、有機肥料)、整地をし、水をはって準備をするのだけれど、代かき、と呼ばれる整地工程が大事である。一枚の田でも、浅いところや深いところ、堅い地盤のところや、ずぶずぶなところがあったりする。そこをいかにならしていくのかが、腕のみせどころである。
有機米栽培といえば、最終的にはほぼ「雑草との戦い」みたいなところに凝縮されるが、戦いは、この代かきから始まっている(もっといえば、冬場の管理からだが)。雑草とよばれる植物たちは、生命力が旺盛だ。この時期、種を表層に引き出し、早めに発芽させてしまうことで、後の雑草管理を楽にする。地域によって、水事情は異なるが、二度代かきをする方も多く、一度目と二度目の感覚がポイント…..などという話を聞かせてもらえると、
ちょっとわかったような気になる。

草とりナウー

撮影日 2013年7月1日。田植えは5月下旬だが、そのあと
機械を使っての除草を3回。しかし、たっぷりとコナギが
田んぼに見える。ご夫婦で取り組む農家さんで、この日は
ご主人が検査に対応、奥様がせっせと草取りに励んでいた

除草剤という便利なものがあるが、有機栽培では使えない。そのため、田んぼの中に雑草が繁殖しないよう、いろんな工夫がされる。ひとつには紙マルチ。古紙を材料につくったシートを引きながら田植えをする方法(紙マルチ用の田植え機がある)。この紙は、時間がたつにつれて溶けるのだが、苗が小さいうちは表面を覆っているので雑草がはえにくい。溶けたころには、稲が大きくなり、日の光をさえぎるため、雑草が繁茂しにくいという仕組みだ。
また、合鴨を使って、田んぼの草を抑えるという方法も盛んである。鴨が泳いで水を濁らせることや、水中の虫をついばみながら雑草もつついてくれたりする。日本で生まれたこの合鴨栽培は、お隣の韓国にも伝播し、合鴨村と呼ぶべき地域もあるほどである。しかし難しいのは、鴨の管理。田の隅々まで動いてもらうためには、餌の上げ方など、コツがあるようだ。苗をなぎ倒してしまう鴨もいて、すごいところでは畔をつつきまくって田んぼが2枚つながっていた例にもでくわしたことがある。はじめ15羽(10aあたり)いたけれど、野犬やキツネなどにやられて、最後には数羽しかいないというのはよく聞く話。カラスなどに鴨がやられないようテグスをはったのはいいが、自分が田んぼに入るときは、ひっかかってしまったとか。鴨のお役目が終わっあと、かわいくて処分できなかったなんてこともある。

鴨が脱走中

元気な鴨たちが、せっせと虫をついばみ、稲のあいだを行き来している….
と思いきや、数羽が電柵の外に脱走中。
野犬などに襲われるので、最近は脱走よけのためのネットでは足りず、
電柵をつけている農家も多い。でも脱走されてしまえばねえ…飼い主なら
ず、指揮官(?)の心知らずの鴨たち。

そのほかの雑草管理の方法としては、くず大豆を使うとか、米ぬかを使うなどもあるし、除草機も様々に開発されたり、器用な方は自分でいろんな道具を作り、グループで集まると皆でその成果を交換しあうので、検査が止まってしまうこともある。仕事は途中で止まってしまっても、この貴重な情報はこちらも耳ダンボにして聞き入ってしまうところだ。
また、雑草との戦いというのは、実は田んぼの中だけではない。その周辺の畔(あぜ)の草の管理も含まれている。有機栽培米づくりに取り組む人達は、暑い夏のさかり、田んぼの中の草取りのほか、畔の草刈りを3~4回している。一度、草刈りのタイミングを逸してしまった田んぼに検査にいった。草むらのようになったその畔には、虫が生息しているので、今刈り払うと、周りに迷惑がかかるというので、そのままにしているという。背丈ほどにも伸びた雑草をなぎ倒しながら歩き、記念写真までとってしまった。コンクリートに囲まれたところに暮らす方ですら、ちょっとした隙間から生える草を目にすることがあると思う。そう、彼らはすごいのだ。多少踏みつけられても、たくましくまた立ち上がる。彼らはすごいのだ。

自分だけではなく、周辺との関係のむずかしさ
さて、田んぼには水は欠かせないものだが、頭痛の種でもある。地域によって水まわりの環境は大きく違うが、隣の田んぼで使った水を再利用する形で使うことも多い。しかし、その隣の田んぼで化学肥料や農薬が使われていれば、水をとおして有機の田んぼにも入ってきてしまう。これを避けるために、水入れのタイミングを工夫したり、「浄化水田」といって、自分の田に水が入る前に炭を入れて浄化したり、水路に雑草などをたくさん繁茂させてみたりしている。
また、栽培期間中は、虫が発生しようが、病気が広がろうが、原則農薬に頼ることはない。私が出会う有機米栽培農家で、田んぼに農薬を散布した話はほとんど目にすることはない(基準ではごく一部、農薬が認められているのですべての有機米が無農薬とはいいきれないが)。しかし、周辺の農家が殺虫殺菌剤などを散布することに異を唱えることはできない。最近は農家も高齢化しているので、ラジコンヘリなどで一斉に薬剤散布する地域もあり、それを避けることはやさしくない。有機の田んぼでそうした農薬は散布されないが、飛んでくるものは避けられない。自分が撒いていなくても、飛んできた、あるいは飛んでくることが明白であれば、その飛散した部分は、収穫しても「有機」として出荷できないようになっている。別に管理することそのものが手間であるが、この涙ぐましい管理によって、お届けしているのが有機米なのだ。

◆有機米を食べよう
日本の稲作というのは、先人からの叡智の結集だと思う。すでに確立した技術だけれど、昔にもどれば、みな有機という単純なものではない。二十年ほど前は、技術指導者たちやベテランの米作り農家に、有機基準の要求されている内容を説明すると、下手すれば怒鳴られたりしたものだ。それが、十年前ぐらいには、有機栽培米づくりの研究会などで、「除草剤を使わないでどのような管理をするか」さまざまな実例、経験から、喧々諤々?の意見交換があったという。
昨年あたりから、国産米が高くなり、外食産業向けの輸入米がいっきに需要が高まって入札が大変だという。こうして輸入された安い米を使って、500円玉一つで余裕のお弁当やランチ定食は、庶民の味方である。でも、私はいいたい。他ならぬ主食、日本のお米の美味しさは、知らねば損。私たちは自分が食べたもので自分の体を作っているのだもの。もし、機会があれば、有機米づくりに取り組む方たちのパワーをもらうつもりで、有機米を召し上がってほしい。