日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。
日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。

JOCA連載コラム vol.3

綿花栽培に関わる環境技術

JOCA 理事 竹内 宏規

水不足
渡辺智恵子さんとレスター・ブラウンの環境レクチャーに参加したことがあります。
「地球の表面にある水のうち、利用可能な淡水は、わずか0.003%に過ぎない。
利用可能な淡水は増えることなく、温暖化、過剰摂取、化学汚染により年々減少
しつつあるのに対し、それを利用する世界の人口は今後100年超の間に倍近くに
なるものと予測されている。 これからは、世界中で起こる水不足と水の取り合い
を巡る争いがとても深刻な問題になるだろう。」という内容の講演でした。

アラル海の消滅
環境ジャーナリストのフレッド・ピアスも、水問題が人類最大の環境問題となる、と
指摘しています。中央アジアの西にある世界第4位の湖だったアラル海は旧ソ連
の市民強制労働に依る周辺地域の膨大な綿花畑の開拓とそのための流入河川
からの無制限の取水により、殆どが干上がり、砂漠化し、塩害が発生しています。
残った湖水や砂、砂を巻き上げる風にも塩と綿花栽培に使用した農薬が含まれ、
その中で生活を余儀なくされているこの地域のウズベキスタン住民は、乳幼児の
死亡率や成人病の発生率が高く、平均寿命が51歳との調査結果が出ています。

綿花栽培の歴史と問題点
綿花栽培の歴史には、古くはアメリカ南部の黒人奴隷問題や旧ソ連の強制労働
に代表される「膨大な労働力」を必要として来た過去、また、アラル海消滅などに
代表される「大量の水と農薬」を必要として来た過去があり、それが従来の綿花
栽培の特徴であったことも否定出来ません。今私たちは綿花のオーガニック栽培
というものを「農薬と化学肥料を使わない、遺伝子組換種子を使わない」ことに加
えて、児童労働を含む労働の問題、そして取水や潅漑が環境破壊をもたらさない
適切な方法で行われているかという観点から改めて見直す必要があるようです

綿花栽培に関わる新しい農業技術
ここでは「水不足」を念頭に、水の使用量を大きくセーブし、労働力をもセーブする
潅漑技術と、有機農業を効率的にサポートする廃材利用資材の今をお伝えします。

①点滴潅漑
従来の潅漑は、水の使用を大きく抑制出来る「節水型」ではありませんでした。
そんななかで、必要な時に必要な量の水を対象植物の根元にだけピンポイント
で供給出来る画期的な「点滴潅漑システム」が砂漠に囲まれた国イスラエルで
開発されました。このシステムによれば水の使用量を大幅に減らすだけでなく
有効な雑草対策になり、労働量の抑制も大きく期待出来るというものです。
コスト高のシステムと思われがちですが、今では中国・新疆の専門メーカーが
大きなシェアを持つ程で、砂地の多い新疆ウイグル自治区では綿花を含むあら
ゆる農業に取り入れられつつあります。 世界中の綿産国で、自国の水と農業
を守る観点から、国や自治体の援助のもとに導入されることが期待されます。

②ハイカラエコ=灰から作るエコ資材
火力発電の廃棄物である石炭灰は、大半が埋め立てなどの「廃棄」処分をされ
ているのが実情です。その石炭灰を原料に人口ゼオライトと呼ばれる、水効率
や肥料効率を上げる農業資材が開発されています。この球形の資材の表面
は無数のミクロの孔で覆われており、貴重な水を有機肥料成分と合せて地表に
留める形で保水保肥効果を発揮し、投入する有用な微生物の棲家となります。
その他にも、有害ガスの吸着による根腐れや連作障害の防止、酸性土壌改善、
重金属吸着、徐臭、水質浄化など多肢に渡る優れた能力を持っています。
潅漑での水効率を上げるのと同時に、土壌での水効率を上げることが重要で、
これも水の少ない世界の綿作地域で使用されるようになるよう期待しています。
そしてまた、人工ゼオライトの研究の進化により、いつの日か製鉄スラッジから
家庭ごみの焼却灰まで有用な資材に変わる日が来ることを期待するものです。

参考文献&HP:レスター・ブラウン 「環境革命」
参考文献&HP:フレッド・ピアス 「水の未来」
参考文献&HP:地球研叢書 福島義宏 「黄河断流」
参考文献&HP:新疆天業節水灌漑HP
参考文献&HP:逸見彰男・坂上越朗 「灰から生まれる宝物のはなし」


節水型点滴潅漑システムとマルチ

 
石炭灰から作られる人工ゼオライト