JOCA連載コラム vol.1
オーガニックコットンの栽培は、
CO2の排出を減らすことができます
― ロデール研究所(米国)の23年間にわたる調査より ―
有機栽培は、通常の農業と比べて、二酸化炭素の排出を大幅に減らすという主張があります。
それはどんな根拠で主張されているのでしょうか。はたして正しい事実なのでしょうか。
この主張は、FAO(国連農業機構)からも出されていますので、信頼できる事実と思われますが、もともとはアメリカのロデール研究所(注1)が23年間の研究の積み重ねによって出した結論が基になっています。
地球上の炭素(C)と二酸化炭素(CO2)
地球にある炭素の量は一定です。たとえ隕石が運んでくるとしても、地球にある炭素の量に比べれば、ごくごく僅かです。
炭素は、植物動物を構成する有機物として固体になっています。その他、大気中のCO2のほか、海水や土中に吸収されています。地球温暖化で問題になるのは、気体の状態になった、大気中のCO2です。
森林や草原の土壌に含まれる有機物は、土壌の重さに対して6~10%を占めています。それを開墾して農場に変えると、土の中の有機物は1~3%に減少してしまいます。森林を農地化することによって、有機物を構成する炭素の多くが、CO2となって大気中に移動します。
炭素をCO2にしない方法
炭素が、動植物や土壌、海水などに貯蔵されることを『隔離』と言いますが、炭素の隔離を増やし、炭素の大気中への排出を減らすことが大切です。炭素の隔離には、生きた動植物や有機物(土壌中の腐植物質など)を増やす方法があります。腐植物質は、炭素を安定した炭素化合物として何千年もの間存続させることができるそうです。
まず、植物の成長による炭素の隔離を見てみましょう。植物の生育が活発な夏と植物が枯死・休眠する冬とを比較すると、大気のCO2の濃度は約10 ppmの違いがあります。冬の方が濃くなるのです。夏、植物が生長する時は、それだけCO2を吸収してくれます。今、われわれが地球上で行っている化石燃料の燃焼や森林伐採によって発生しているCO2の年間平均増加量は、1.3 ppmですから、地球上の植物の力の大きさがよく分かります。
次に土の中の有機物を見てみましょう。
有機栽培農業と通常の農業とを比較してみます。
比較する数字の単位には、1エーカーの面積(4,047平方メートル)の土地で深さ1フット(0.3メートル)の土壌を単位とするエーカー・フット(ac・f)をベースとします。
ローデル研究所の調査では、有機栽培によって、1年間に土壌中の炭素は平均455kg/ac・f増加しました。CO2に換算しますと約1,600kg/ac・fとなります(注2)。
世界の綿花栽培地3,400万ヘクタール(8,400万エーカー)で計算すると、オーガニックコットン栽培に切り替えれば1,344億kgのCO2が隔離されることとなります。
有機栽培によって、土壌中の炭素は、有機物の形で15~28%増加し、窒素も8~15%増加しますが、通常の農業では炭素・窒素ともほとんど増加を認められなかったそうです。土壌に炭素や窒素が増加することは、土壌の生産力を高めることになります。
有機栽培と菌根菌の働き
有機栽培と通常の農業とで、このような違いができるのはなぜでしょうか。その理由として、土の中の有機物の腐植化の速さの違いが上げられています。有機栽培では、有機物の分解はゆっくりと進み、さらにCO2になるまでにゆっくりと進むのです。一方、通常の農業では、可溶性の窒素肥料が使われるので、有機物の腐植を早め、早くCO2をつくって大気中に放散されると考えられています。
土壌の中で活動する菌根菌(注3)の働きが注目されています。菌根菌は、有機物の腐植化を一定に保ち、緩やかにします。菌根菌は、有機栽培の農地では、よく育ちます。通常の農業で使われる化学肥料や農薬は菌根の生育や働きを抑えてしまいます。
菌根菌は、有機物と土や鉱物を結びつけて土の団粒(小さな塊)をつくります。団粒の中の有機物は、遊離している有機物よりも分解しにくいのです。ちょうど有機物が保護されているような状態になります。団粒をつくるのは、菌根菌が出すグロマリンと呼ばれる強力な接着剤のような物質だということが分かっています。
有機栽培の畑では、増殖した菌根菌の盛んな活動により、農作物の根による栄養摂取や吸水能力が活発となり、またある種の植物病原体に対する抑制力を高めることが確認されています。
有機物の大切さ
土中の有機物の炭素は1兆5,800億トンに達すると推定されています。現在、大気中には、7,500億トンの炭素があると言われるので、ほぼ2倍になります。また、地球上の全生物の中に含まれる炭素は、6,100億トンということですので、それより3倍近く多いことになります。土壌中の有機物をもっと大切に考えたいものです。
化石燃料の残存量には5兆トンの炭素が含まれていると推定されています。この化石燃料の可採埋蔵量のすべてを消費してしまうと、大気中の二酸化炭素の濃度は現在の4倍から8倍に増えると推定されています。生物が生存しがたい世界です。
注1:ロデール研究所 The Rodale Institute については、 http://www.rodaleinstitute.org/about_us または http://newfarm.rodaleinstitute.org/japan/AboutUs/01_Who/SJ_Who.shtml (日本文)をご覧ください。
注2:CO2の重さは、C(炭素)の3.67倍
注3: 糸状菌が 植物の根の表面または内部に 着生したものを 菌根といい、 菌根を作って 植物と 共生する 菌類のことを菌根菌と言います。
http://www.agr.hokudai.ac.jp/fres/fbio/field%20kinkon.htm
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/mycorryhiza.html
(以上)