日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。
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JOCA連載コラム vol.12

国際綿花諮問委員会の論説「綿花生産のいろいろな取り組み」を解説

JOCA顧問  森 和彦

先日、ある出版社からJOCAへの取材で、「オーガニックコットン以外にも綿花栽培にはいろいろな取り組みがあるようですね」、と質問されました。私も昨今いろいろな取り組みがあると聞いていますが、正確に答えられるほどの知識がありませんでした。その時は特に具体的な質問はなかったのですが、機会があったら勉強しておこうと思っていたら、国際綿花諮問委員会の常任委員会(2011年2月3日ワシントン)の付属文書にこの論説がありました。
国際綿花諮問委員会 (ICAC, International Cotton Advisory Committee)は、世界40カ国の綿産国と綿花消費国の政府が参加する国際機関で、本部はアメリカのワシントン、世界の綿花生産、綿花消費、貿易や在庫、技術などの調査研究と、その情報を世界に供給しています。また綿花や綿製品に関する諸問題の国際的な討議の場を提供しています。この論説ではICACとしてはいろいろな取り組みを歓迎するけれど、問題点も指摘しています。
JOCAの中にいるとコンベンショナルに対してオーガニックは、という角度で綿花を見てしまいますが、たまには視点を変えて、綿花全体からオーガニックを含むこのような綿花生産への取組み、イニシアチブについて概観しておくのも必要かなと思い、私の勉強のために日本語訳をしてみました。中にはフェアトレードのようにオーガニックとセットで良く使われているものもあります。


四つの主要なイニシアチブ
この論説では
①オーガニックコットン
②フェアトレード・コットン
③コットン・メイド・イン・アフリカ
④ベター・コットン・イニシアチブ

の四つを取り上げて論評しています。
これらがこの10年の間に先進国主導で始まった背景には、農村の貧困(児童労働や自殺なども含め)、気候変動、持続可能な産業、途上国の成長と所得の伸び、などの要因から途上国の農業に直接関与して改善を推進することが、先進国の社会的環境的責任であるという考え方があります。また将来予測される水の不足や食料作物との競合などから、途上国の農業と先進国のサプライ・チェーンを直接結びつけ、堅固な調達ルートを作ろうという狙いも見えてきます。

①オーガニックコットン

コンベンショナルとオーガニックの栽培システムの比較では、遺伝子組み換え種子の使用の可否、種子の播種前の処理の可否、合成肥料とコンポスト、連作の可否、雑草管理、害虫駆除、落葉の違いなどを挙げています。また主要な国のオーガニック農法基準、オーガニック認証へ至る一般的な手続き、テキスタイル基準としてOEとGOTSについて説明、世界のオーガニックコットンの生産国と生産量では綿花全体の1%を超え、2009/10年度で15%の成長を達成、特にインドが80%のシェア、23カ国、275,000人の農民、461,000ヘクタールの畑で241,697トンのリント生産が2009/10年度の実態、と報告しています。
問題点としてあげているのは、オーガニックコットンの原綿生産コストが高いこと、認証や表示のためのコストが高いこと、グリーン・ファイバーやサステイナブル繊維、リサイクル繊維など市場で競合する相手が増えたこと、認証は市場へのアクセス権ではあるが、買い取られることの保証ではなく、プレミアムも保証はされない、などです。

②フェアトレード・コットン

対象はオーガニックでもコンベンショナルでも良く、従来の取引が途上国の零細農民に不利な条件だったのを、生産者と消費者を対等のパートナーとして位置付け、生産者にはより良い交易条件を、消費者には毎日のショッピングで貧困を減らすことに貢献する一体感を提供し、対等で継続可能な直接的取引環境の創出を意図するもの。
もともといくつかの国で自然発生的に始まったフェアトレード運動が、一つのアンブレラ組織にまとめられ、今の形になったのですが、それでもなかなか理解しにくい仕組みです。以下に主要な組織を列挙してみました。

●中心にあるのは国際フェアトレードラベル機構・・・FLO
国際的なフェアトレード基準を策定し、フェアトレードの生産者を支援する、マルチステークホルダー組織。認証機関FLO-CERTを所有している。

フェアトレード・ラベリング・イニシアチブ・・・FLIs
それぞれの国でフェアトレードを展開する国内組織で、現在23の国をカバーする19のHLIsがヨーロッパ、北アメリカ、日本(フェアトレード・ラベル・ジャパン)、オーストラリア、ニュージーランドにある。フェアトレードのマークを製品に添付するライセンスを、申請するテキスタイル・アパレル、小売業に供与している。

フェアトレード生産者ネットワーク・・・FPNs
フェアトレード認証生産者のグループが加盟する協会。アフリカ、アジア、ラテン・アメリカとカリブ海諸島の三つのネットワークがある。フェアトレード認証生産者のグループはたくさんある。

フェアトレード・マーケティング・オーガニゼーション・・・FMOs
国レベルでフェアトレードを展開推進する組織で前述のFLIsと似ている。現在のFMOsは二つ、南アフリカとチェコにある。

国際フェアトレードラベル機構FLOの年次総会で理事が選ばれるが、FLIsから5人、FPNsから3人とグループから1人、フェアトレードのトレーダーから2人、外部の専門家3人が選ばれ理事会を構成。ドイツのボンに本部があり70人のスタッフ。世界中に連絡係の職員を持っています。

これらのシステムはほとんどがフェアトレードのライセンス料で賄われ、他に公的私的な寄付金を受けています。FLOは政府の支援は受けません。FLOは実質的にFLIsとFPNsに所有されています。アンブレラをその下の組織が所有する形は面白いと思います。

綿花がフェアトレード生産品リストに入れられたのが2004年。綿産国のフェアトレード綿作農家は小規模なのが多く、協同組合を形成し綿花販売をしますが、インド、パキスタンは推進団体にシードコットンを売ります。これらの協同組合や推進団体はFLOに認証され、現在40あって、インドで18、西と中央アフリカで17、その他の国で5あります。フェアトレードの販売で得た特別な利益を農家に還元しています。

フェアトレード市場はフランス、イギリス、スイスでシェアが高いです。この市場に綿花を売ることで農家はミニマム・プライスとフェアトレード・プレミアムを受けますが、ただしフェアトレードで売れた時だけです。市場価格がミニマム・プライスを超えていれば市場価格を適用。ミニマム・プライスは地域によって細かく設定されています。

フェアトレード・コットンの環境基準を持ち、農業ケミカルの規制や遺伝子組換えは禁止などオーガニックと順応性があります。オーガニック・フェアトレード・ミニマム・プライスはコンベンショナルより20%高くなります。

FLOの認証にはトレーサビリティーと、製造加工のすべてのステージで「分離と識別」を要求して、GOTSと似てきました。またサプライ・チェーンのすべてでILO国際労働機関の主要な条約の履行も要求、下請けも含めています。

2008年のフェアトレード認証コットンの製品は27,600,000個、2007年の倍、2009年は23,350,000個に減。2008/09綿花年度のフェアトレード綿花生産は93,000人の農家が73,000トンのシードコットンを生産、このうち22,000トンがオーガニックでした。つまりフェアトレード・コットンの30%はオーガニックコットンですが、オーガニックコットンの4%がフェアトレード・コットンの計算になります。(シードコットンからリントコットンは40%)

2008年以降フェアトレード・コットンがフェアトレードの価格で売れなかったため生産は縮小傾向。

フェアトレード認証生産者のグループは33あり、インド、ブルキナ・ファソ、カメルーン、マリ、セネガル、ブラジル、エジプト、ペルー、キルギスタンにある。

③コットン・メイド・イン・アフリカ CmiA

これは日本ではあまり知られていないイニシアチブですが、ドイツの政府と民間がアフリカの綿花生産と農民の生活改善をセットで応援する仕組みで、官民提携開発援助の新しい形です。
日本でもJETROがレポートしています。まずこれから報告します。

(JICA資料より抜粋、訳者)
「サハラ以南アフリカでは約2千万人が綿花生産に従事。零細な生産者は国際価格低迷、
低生産性等のため困難に直面。多量の農薬使用が生産者に健康被害をもたらしている。
独オットー・グループは、独政府ODAの支援を受け、高品質綿花の長期的確保等のため、
2005年に「Cotton made in Africa アライアンス・プロジェクト」を立ち上げ、零細綿花生
産農家に対し栽培方法の研修を提供し、品質・生産性と生産者所得の向上、農薬被害予防
等の成果を挙げている。また、 独国輸入業者が守るべき綿花生産の社会面、自然環境面、
経済面の基準を導入。輸入業者等はライセンス料を支払い、それを本プロジェクトに再投資。
このプロジェクトは、ベナン、ブルキナ・ファソ、ザンビア、モザンビークの13万人の
農家広げられ、綿花生産量8万5千トン(耕作面積16万ヘクタール)に及ぶ。

ICACの論説ではアフリカの小規模自作農家の暮らしと環境の改善を意図して、
①綿花栽培の改善と持続可能な生産への転換
②アフリカ綿花の競争力強化
③テキスタイルのサプライ・チェーン
に社会的責任の新しい次元を加える、の三つをゴールとしています。

対象とする綿作農家は雨育地域の食料作物とのクロップ・ローテーションをする小規模農家。持続可能な綿花生産のために、子供たちの小学校教育や水使用の効率、合成肥料や農薬の使用などの%の指標をモニターし、市場へのアクセスも提供。危険な作業と児童労働、自然保護区の耕作禁止などを前提条件としています。

ファーマー・フィールド・スクールでの最適な栽培管理の訓練、綿花を扱う地元の会社を育成、農民へのマイクロ・クレジットの後押し。

CmiAの戦略的な位置付け、性格は
◆大手商社とそのサプライ・チェーンに繋ぎ、世界のマーケットにスムーズに製品を送り込む。
◆この製品には社会的責任の高い付加価値が付いている。
◆需要対象となる人たちは、サステイナプルな実践でアフリカの発展に寄与したい、プライス・コンシャスな消 費者。ブランドやファッション・トレンドには敏感でも、価格合理主義の消費者。
◆フェアトレードやオーガニックコットンはニッチなハイエンド・マーケットへのアクセスのための認証スキー  ムと位置付け、CmiAと対比させている。つまり認証や表示にお金をかけない、ドイツらしい発想がある。

CmiAプロジェクトは2005年に官民連携(Public Private Partnership)として、「貿易による援助資金」(Aid by Trade Foundation)によって始められた。サプライ・チェーンを構成する産業、公的部門、リサーチ集団、NGOなどからなる戦略的な連携で、資金サポートと技術的コンサルタントでCmiAイニシアチブを支える。

ドイツの通販大手オットー(OTTO)グループのマイケル・オットー博士のリーダーシップが始まりで、公的部門ではBMZドイツ経済協力開発省、DEGドイツ投資開発銀行、GTZドイツ技術協力公社、NABUドイツ自然保護連盟、WWF世界自然保護基金など、それにコンサルタントのアクセンチュア、広告代理業のマッキャン・エリクソン、ビル・ゲイツ基金などが参加推進。
およそ140,000人のアフリカ小規模農民が参加、2008/09年度29,000トン。翌2009/10年度171,433人で49,957トン。2008/09年度ザンビア、ベニン、ブルキナ・ファソが参加、2009/10年度マラウィとコートジボワールが参加、2010/11年度モザンビークが参加。貿易による援助基金(Aid by Trade Foundation)もエチオピア、エジプト、南アフリカ、モーリシャス島でジン工場を運営。2010年のCmiAライセンスの衣類がヨーロッパと北アメリカの20の小売業で10,000,000着販売。

CmiAの検証システムはオランダの大学で起草され、コンサルティング会社が更に開発、サプライ・チェーンの各段階(原綿の栽培、繰り綿、倉庫、輸送)を検証(verify)する。第三者検証。

最初の検証は2009年の2月ベニン、ブルキナ・ファソ、コートジボワールの繰り綿、12月に畑もエコサートとアフリサートが検証。

2009/10年度のプロジェクト数5(西アフリカ3、南アフリカ2)、面積198,210ヘクタール、農民数171,433人、リント生産49,957トン、イールドはシードコットンで781kg/ヘクタール(リントで252kg/ヘクタール)。
市場のターゲットは違うのにCmiAはオーガニックコットンを補完するものとみなされていて、テキスタイル・エクスチェンジのような組織と協働するケースが多い。遺伝子組み換えを3年間停止することを義務付けているが、貿易による援助基金(Aid by Trade Foundation)は2011年に遺伝子組み換え綿花の使用を討議する予定。

④ベター・コットン・イニシアチブ

BCIのゴールは、世界の綿花生産を、それを作る人にベター、それが育つ環境にベター、その分野の未来にベター、にすること。長期目標は人と環境に与える水と農薬の使用の影響を減らし、土壌の健康改善と微生物の多様化、農業コミュニティーの構築、世界的なサステイナブル綿花生産の情報交換、サプライ・チェーンの透明性の確保などにより、ベター・コットン農家への収益の実現。

BCIのスタートは2005年、世界的なマルチ・ステークホルダー(多面的利害関係者)の協議から。非営利の会員制の協会で、BCIのミッションをサポートする団体や企業に門戸を開いている。綿花生産の協会(ブラジル、アフリカ、パキスタン)、小売とブランド(アディダス、H&M、イケア、リーバイ・ストラウス、マークス・アンド・スペンサー、ナイキなど)、サプライヤーと製造業者、賛助会員(コットン・コネクトなど)、民間団体(コットン・インコーポレイテッド、パンUK、ソリダリダード、WWF世界自然保護基金)など、55の組織が参加。

BCIはプレミアム製品を作るつもりはなく、ベター・マネージメント・プラクティスとインプット削減によるファーム・コストの削減と収益増に焦点を置き、参加する農家は農薬使用、健康と安全、水の使用、繊維の品質、生育環境保護、結社の自由、児童労働、強制労働、差別禁止などのミニマム・プロダクション・クライテリア(判定基準)を満たすこと。改善のための年ごとの計画策定。BCIはラベリングのスキームではないが第三者のモニタリングと検証を伴います。

綿花生産ではベター・コットンの分離と識別、トラック・アンド・トレース・システムによるトレーサビリティー確保がありますが、ベター・コットン・イニシアチブのラベルはなく、ラベリング・システムの開発もしていません。

サプライ・チェーンでは、参加者の付帯的なコストは最小化、綿花産地は不問、テキスタイルのサプライ・チェーンは事業会社の責任で管理。

当初の立ち上げはブラジル、インド、パキスタン、西と中央アフリカ。2010年には65,000人の農民、シードコットンで30,000トン。

2009年BCIのスピードアップのため基金と急速追跡システム(Better Cotton Fast Track Program)が作られ、基金も整備されています。

それぞれのイニシアチブの比較

オーガニックコットンは農法システムと環境的持続可能性に焦点、フェアトレード、CmiA、BCIは農村部の貧困との取り組みが焦点。

ラベルがあるのはオーガニックコットン、フェアトレード、CmiA。BCIはラベルがありません。

オーガニックコットンは製品が売られる国の規定により、綿花生産の基準が変わりますが、他の三つはそれぞれの世界的に共通の原則を運営母体が持っています。

オーガニックコットンは1990年代の初期に始まりますが、他の三つは2000年代中期に始まっています。オーガニックコットンは2009/10年度で23ヶ国241,697トン、CmiAは5ヶ国50,000トン弱、フェアトレードは2008/09年度で9ヶ国50,000トン弱、BCIは9ヶ国10,000トン(リント2010/11年度)

オーガニックとBCIはすべての綿産国で栽培可能、フェアトレードは途上国のみ、CmiAはアフリカのみ。

イニシアチブの重なりは、オーガニック/フェアトレード、オーガニック/CmiAはありえますが、BCIはコンベンショナルのみでオーガニックとの重なりはありません。

フェアトレードのミニマム・プライスとプレミアムは、その綿花がフェアトレードとして売られた時のみ実現するもの、通常の取引では保証されません。オーガニックコットンもコンベンショナルに対してプレミアムがありますが、需要と供給で変わります。CmiAは価格の保証はなく、少額のライセンス・フィーで援助をします。BCIも高い価格の保証はせず、農業の改善と生産性向上を実現します。

これらの比較表

スペシャルティー・コットンへのチャレンジ

ICACはこれらの「特別なコットン」プログラムを強く支持し、これらのプログラムの知識を広げるため会議や出版物に時間とスペースを、また研究調査員も配分しています。小さな生産から近年印象的な成長を示しているが、大きな規模の参加には限界も見えます。

これら四つのイニシアチブの主要な障害は、農民は新しいクロップ・マネージメントの技術習得を要求され、付加的なコストがかかり、でも綿花が売れる保証はない、プレミアムや最低価格はフェアトレードを除いて保証されず、フェアトレードもそれで売れる保証はない、特にコンベンショナルは価格変動を受けやすい。

オーガニックコットン、CmiA、BCIの綿花価格の情報が公開されず、農民が将来の計画を立てにくく、参加を検討している農民も決定しにくい。

フェアトレード、オーガニック、CmiAは更に二つの挑戦に直面、畑からアパレルまでのパイプラインの中での分離の難しさと、トレーサビリティー・システムを求めるマーケットが少ないこと、更に均質性を求めて繊維をブレンドしたがるメーカー、そして認証自体が小規模農家には法外に高いこと。

オーガニックコットンの大規模な参加のもう一つの難しさは、多くの場合綿花は水の不足しがちな地域で栽培されるため、発酵させて堆肥を作る原料が足りないこと、堆肥づくりの労働力がたくさん必要なこと、また害虫管理と土壌管理はケミカル農法と同じ複雑な技術が必要で、更なる学術研究と拡大したシステムが開発されなければならないでしょう。

加えて現在進められている綿花栽培技術の改善と農業ケミカルへの理解が進み、コンベンショナルの生産システムは働く人や環境にダメージを与えるという、オーガニックコットンの根本をなす根拠が昔ほどの効果を持たなくなった、とICACの研究者は感じています。

結論

この論説で取り上げた四つのイニシアチブはすべて、テキスタイル製品の原産地や製造加工プロセスへの消費者のセンシティビティが増加したこの2-3年で重要性を獲得。
オーガニックコットンが農法システムと環境の持続可能性に焦点、フェアトレード、BCI、CmiAは農村の貧困との取り組みに焦点。どのイニシアチブも綿作農家の収入の不安定さ、綿花価格の乱高下に伴うリスク、には取り組んでいない。
フェアトレードは最低価格があるがこれで売れると言う保証ではない。コンベンショナルでの「特別なコットン」は乱高下の影響を受けやすい。