日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。
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JOCA連載コラム vol.28

2014/6/14-原子力災害からの復興を考える-との全体テーマのもと、福島大学で
環境社会学会が開催されました。その席上、ふくしまオーガニックコットンプロジ
ェクトに関わるテーマで、次のような内容の発表を行いましたのでご報告します。)

福島における持続可能な農業再生への取り組みと見えてきた課題
-ふくしまオーガニックコットンプロジェクトを事例として-

JOCA理事  竹内 宏規

1.はじめに

国内の綿栽培は、江戸期には自給の意味でも経済活動を伴う形でも盛んに行われたが、明治期に入り紡績原料として繊維長が長く格段に安い海外産の綿花が輸入されるにおよび、換金作物としての栽培は消滅した。そして現在まで農水省の農業生産品目からは除外されている。

福島原発事故後の混乱の中で、いわき市にふくしまオーガニックコットンプロジェクトが生まれ3年になる。栽培は耕作放棄地の利用を含め当初の2倍の3haに増え、綿の放射線量を確認しつつ(巻末注)、現在は強制避難地域に近い広野町、南相馬市にその範囲を拡げている。

このプロジェクトは、食用作物に代えて綿の栽培を提案することで、「風評」に苦しむ農業者の転作を支援し、また避難している農業者や帰還を考える農業者に新たな就農機会を提供しようとするものである。その目的は、福島の農業生産の復活であり人と地域社会の再生である。

その仕組みは、綿の有機栽培を行い、収穫した綿で人形を作ったり糸や生地にしたものからTシャツなど最終製品を作るものである。また消費者に綿の種を提供し、消費者自らが栽培した綿を福島に戻してもらい原料にする、消費者参加の循環型生産サイクルを持つものである。

ただし、上述の如く換金作物としての綿の栽培は誰も経験がなく、実験的な事業である点で困難も多い。また、海外との綿の生産コストの差が大きいため、綿の栽培自体を企業活動として行うのか社会貢献を目的として行うのかによって、その位置づけは大きく異なるものとなる。

2.福島農業の現況について

福島県の浜通り地区における農業者が直面する問題は、避難生活、就労困難、家族の分断、農業コミュニティの崩壊、「風評」による経済的・精神的ダメージ、耕作放棄地の拡大など、数え切れない問題が山積している。このうち、このプロジェクトが関わり得ると思われる3つの項目について、データを含め現況を見ていきたい。

(1)「風評」による経済的ダメージ    (福島県産品に対する首都圏消費者意識調査)
買わない買う機会なし気にならない買うその他


*2014年2月14日福島民友朝刊掲載
この調査は、昨年12月までの1年3ヶ月の間に、福島県産品に対する首都圏の消費者意識がどのように変化したかを見るものである。ここから見えることは、この期間において消費者の意識にほぼ変化が見られないこと、そして福島県産品を「買わない」「買う機会なし」との否定的なニュアンスを選択した消費者が、事故から約3年を経ても約半数存在することである。

(2) 耕作放棄地の拡大
耕作放棄地は5年に1度の農林業センサスで実態調査が行われ、2010年すなわち原発事故前の調査において福島の耕作放棄率は19%と、全国平均10%より突出したものとなっていた。事故後については、食料農業白書2013によると、避難者を含め震災後の福島の農業者の約41%が営農を再開しておらず、福島の耕作放棄率は今後もなお大きく上昇するものと推測される。

(3) 帰還政策について
国の帰還政策は、除染とインフラ復旧が進めば元の住居に戻るべきとの前提に立っている。 これに対し、帰還への住民意向調査(復興庁・福島県2013)の富岡町の例では、「戻りたい」15.6%、「判断がつかない」43.3%、「戻らないと決めている」40.0%、無回答1.1%である。
1ミリシーベルトの基準放射線量を帰還地域に限っては20ミリシーベルトとすることや、放射性廃棄物の「中間貯蔵地」が「最終貯蔵地」にされてしまうのではといった疑義があるからこその結果であり、農業者は更に帰還し帰農しても風評影響の不安が付いて回ることになる。

3.ふくしまオーガニックコットンプロジェクトがもたらす政策的効果と今後の課題
「風評」による影響に関し、復興庁2013「福島復興・再生に向けた取組状況」の国の施策として、①農産品ブランド力回復のPR、②省庁の食堂利用、③海外の輸入規制緩和、などと具体策なくお手上げ状態を露呈している。そんな中、食物としてではない工業用原料への作物転換は、「風評」に左右されずに農業者が農業を継続できる具体的な方策の一つといえる。

耕作放棄地については、「少子高齢化+過疎化」が元々の増加要因であり、放射能被害がこれを加速させることが確実視されているなか、耕作放棄地を中心に活動範囲を拡げる農業活動は、拡大すればするほど耕作放棄地を縮小させる効果をもつことはあきらかである。

また、農業を生業としてきた避難者や将来の帰還者に対し、他の仕事ではなく農業者としての仕事の創出こそが必要不可欠であって、農業コミュニティの再生という意味も含め、その政策的効果は、農業生産の再生のみならず農業者すなわち人の再生をももたらすものと考える。

しかし事業性については課題もある。現在、再生エネルギーや被災地スタディーツアーの市民プロジェクトと連携し、相乗効果が生まれ、経費効率は上がりつつある。しかし輸入綿花に較べてそのコスト差が非常に大きく、綿栽培単体では採算的に成り立たない。栽培地を増やせば増やすほどマイナスが大きくなり、本来なら別事業であるべき製品加工事業の収益のプラスでこれを補い、且つ寄付金などの好意に頼らざるを得ないのが現状である。

ただし、この事業は原発事故後のスタート時から、企業の如く採算を求めて生まれたものではなく、原発事故がもたらす何時終わるとも知れない特殊な被害に直面する農業者を支援する目的で、あくまでも社会性を重視して生み出されたNPO活動であることを想起すべきである。

その意味において、風評被害、耕作放棄、帰還政策などの問題に対応し得る具体策として、また津波被災地で効果を発揮する塩害対策としても、綿栽培の持つ機能と役割が広く認知される必要があると同時に、まず綿花そのものが農林省の農業品目として認定される必要がある。

農業品目に認定し、海外綿花とのコスト差を政策上の機能と役割に見合う「社会的費用」として捉えれば、現在は対象とされていない農林省の耕作放棄地再生利用交付金や復興庁の被災者向け農業雇用事業交付金などの枠組みの中に含めることは十分に可能であると考えられる。

当然、補助金等は時限の措置に過ぎず事業継続面で持続可能性がないとの指摘も有り得る。しかし、この事業があくまで原発事故がもたらした被害への対応策であり、また一時的に綿栽培に取組む農家が含まれることを考えれば、時限の措置にも十分意味が有り効果を期待し得る。

まずはそれらの支えによって、農業者は安心して綿栽培への転換と農地の利用拡大を進めることが出来、拡大をすることによってその特徴的な機能を十分に発揮することが可能となる。そこにおいて、このふくしまオーガニックコットンプロジェクトは福島の持続可能な農業生産の復活と人と地域社会の再生のための課題解決型プロジェクトとして、あらたな公的意義とあらたな役割を持つに至るものと考える。

以上。

注 :  いわき市内で栽培された綿のセシウム134と137の放射線量は、東北大学大学院理学研究科原子核物理研究室の測定ならびに解析によって、検査したすべての農場の綿はNDすなわち検出限界以下であることが証明された。

参考文献:
1.松岡俊二、いわきおてんとSUN企業組合編(2013)『フクシマから日本の未来を創る』早稲田大学出版部
2.小出裕章、明峯哲夫、中島紀一、菅野正寿(2013)『原発事故と農の復興』コモンズ出版
3.守友裕一、大谷尚之、神代英昭編著(2014)『福島 農からの日本再生』農文協