日本オーガニックコットン協会は、人と地球を守る活動をしています。
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JOCA連載コラム vol.8

広がる有機と認証制度

JOCA顧問 作吉 むつ美

私は、有機食品の検査認証に携わるようになり、18年ほどになります。繊維についてはまだ入口にも立っていないようなものですが、有機食品の認証業界では大局!と自覚しております。今日はちょっと昔話も交えて、有機と認証についてご紹介したいと思います。



私が検査認証に関わり始めた当時、日本の有機食品業界では“顔のみえる関係”が重要視されていました。作り手を消費(流通販売)する側が理解し、また作り手も消費(流通販売)する人がみえて、気持ちをこめて生産する、というのが基本と考えてよいでしょう。そんな時代、第三者による認証というのは、ごくごく一部、欧米への輸出用に限られていました。

私は、検査員になる少し前にそうした輸出用の認証申請書類作成のために、農家さん達に聞き取りをしたことがあります。その際、「農薬を使っていませんか?」と聞いただけで、激怒されたことがありました。初めて会ったどこの何某かもわからんようなねーちゃんに、なんでこんなことを聞かれなくちゃいけないんだ!俺をなんだと思っているんだ、ってな具合だったのでしょう。ほんとうにものすごく腹をたてられ、そのあとは怒りにまかせて暴走運転。いやー、このままガードレールを飛び越して山から転がり落ちるのではなかろうかと緊張しました。(でも、その後は何回か検査員としてそこにおじゃまして、勉強させていただいてます)
その後は、安全な食品への関心も高まり、民間の有機認証が日本国内販売のためにも動き始め、あれよあれよという間に法律で管理される仕組みとなりました。その法律は、「JAS法」といって、表示を管理して、消費者に適切な情報を提供するためのものです。


有機食品の検査認証制度
このJAS法と呼ばれる法律は古くからあったのですが、2000年に、その一部として有機食品の検査認証制度がスタートしました。すでに10年以上の実績があるんです。左のマークを、「有機JASマーク」と呼んでいます。日本国内で、農産物と農産物加工食品を「有機」とか「オーガニック」などと、パッケージに書かれているときは、このマークがついているはずです(ないものは表示違反といって、罰則の対象になる可能性があります)。
この「有機JASマーク」は、認証を受けた人しか使えません。ですから、ある農家さんが、いくら農薬や化学肥料を使わないで野菜を作ったからといって、袋に「有機野菜」などと表記することはできない、という訳です。

では、どんなものがこの「有機JASマーク」をつけて販売されているのでしょうか。農水省のホームページでは、有機認証制度について詳しい説明がありますが、そこに記載されている表から、こんなデータが読み取れました(2009年度)。

日本国内での農産物生産量は、年々減ってきているようです。しかし、有機農産物の生産はあまり極端には減っていないということは、これから日本国内では有機的な生産が有利になるのかと期待したくなります。

加工食品の生産量は集計がないのですが、こちらはアイテムによって変化が大きいようにみえます。1995年頃から、有機納豆の第三者認証はいっきに加速しました。しかし、最近スーパーの店頭などで有機JASマークのついた納豆はずいぶん少なくなったように感じていたのですが、半減しているのですから当然ですね。それに対して、国産大豆を使った納豆や豆腐が増えてきています。日本国内で、日本人がたくさん消費する大豆を生産できることは頼もしい限り。これが有機になるなら、もっと嬉しいと思う反面、さまざまな行政の仕組みや、生産効率などを知れば知るほど、それほど単純に言い切れることではないなあと感じています。

検査員の仕事
私が検査を始めたころに比べると、ごく普通のスーパー、食料品売り場にも、有機のものがポツポツと並ぶようになりました。地域によって、かなり違いはありますが、だいぶ入手しやすくなり、私のような有機ファンには嬉しい傾向です。自分がおじゃました生産者やメーカーさんのものを見つけるのは、楽しみのひとつです。もし店頭でみなさんが「有機JASマーク」のついた製品をみつけたら、その農場や工場には、私のような検査員が定期的に生産現場におじゃましているはずです。
残念ながら、検査員には守秘義務がありますから、その生産状況を説明できません。でも、作り手の姿勢やこだわり、その苦労を肌で感じ、感謝の気持ちにあふれることもしばしば。そこで、固有の情報は提供できないけれど、検査認証で見聞きし、学んだことをお伝えしようと、検査員仲間で「オーガニックコミュニケータ講座」というのを始めました。
ご興味がある方は、ぜひ下記のWEBでご確認ください。
http://www.joia.jp/tr/trhtml/trentrance.htm

”検査“と言うと、分析をイメージされる方が多いのですが、有機の検査では、分析はあくまでも補足的に使います。生産者が自分で、法律にそって生産するルールを作るのが基本となっています。そのルールが、法律にあっているのか、そしてそれがうまく動いているか、というのが、検査員の確認する方法です。しかし、毎日生産している脇でチェックしている訳ではありませんから、その検査方法にはもちろん限界があります。
最近では、分析をする割合も徐々に増えてきています。しかし、もともと、第三者が認証するため、生産とは異なるコストがかかっています。さらに分析費用をかけてしまうと、ただでさえ生産原価が高くなりがちな有機食品が、手に届かないものになってしまいます。消費者の信頼を勝ち取るためにも、よい検査認証を行いたいという気持ちで取り組んでいますが、手間暇をかけすぎて、飾り物のように一部の高価な食品のみが有機になってしまっては、意味がありません。
コットンの世界においても、認証のもつ良さと、それに対してかかってしまうコストとのバランスがなかなか見えないところにきています。
私の食品認証での経験を少しでもいかせればと、模索中です。